愛知県衛生研究所

RSウイルス感染症

2021年8月

RSウイルスの特徴

RSウイルス(respiratory syncytial virus: RSV、学名:Human orthopneumovirus)は、乳児急性気道感染症(細気管支炎、肺炎など)の主な原因ウイルスです。名前の由来は、呼吸器(respiratory tract)感染症患者から分離され、感染細胞が多核巨細胞(合胞体syncytium)を形成するという特徴からです。

RSウイルスはニューモウイルス科(Pneumoviridae)のオルソニューモウイルス属(Orthopneumovirus)に分類されます。ニューモウイルス科に属するウイルスには、同じく呼吸器感染症をおこすヒトメタニューモウイルスがあります。

RSウイルス粒子はエンベロープをもち、遺伝子は1本のマイナス(-)鎖RNAです。ウイルスゲノムは約15.2Kb長で11のタンパク質(NS1, NS2, N, P, M, SH, G, F, M2-1, M2-2, L)をコードしています。ウイルス表面にはG(large Glycoprotein)タンパク質(宿主への接着)とF(Fusion)タンパク質(膜融合を起こす)及びSH(small hydrophobic)タンパク質があり、A型とB型の血清型が知られています。さらに、各血清型はGタンパク質の遺伝子解析から多くの遺伝子型に分類されています。

乳児、高齢者のRSウイルス感染症は要注意

RSウイルスは接触や飛沫を介して気道に感染し、2-5日の潜伏期の後、発熱、鼻水、咳などで発症、通常1-2週間で軽快します。しかし2歳以下の乳幼児ではしばしば上気道炎から下気道炎に進展して細気管支炎、肺炎を発症し、特に6ヶ月以下の乳児では入院加療を必要とすることが珍しくありません。免疫不全児、低出生体重児や呼吸器・循環器に基礎疾患をもつ乳幼児は重症化しやすく、特に注意が必要です。

また、慢性呼吸器疾患や心疾患等の基礎疾患を持つ高齢者においても入院加療や肺炎に至るケースもあるため注意が必要です。

RSウイルス感染症の疫学

RSウイルス感染症は、2003年11月から新たに五類感染症の定点把握対象疾患に加えられ、全国集計が開始されました。愛知県では182の小児科定点から毎週患者の発生状況の報告があります (愛知県の感染症情報全国の病原微生物検出情報)。

RSウイルス感染症は世界中でみられます。日本では主に乳幼児の間で季節性インフルエンザに先行して発生していますが、地域において特徴的な季節性が報告されています。本県では2015年までは秋に患者が増加しはじめ年末にピークがみられましたが、2016年以降は患者発生が早まり、夏から秋にピークを迎えていました。2021年はさらに患者報告が早まり、春以降、定点当たりの報告数が2013年の調査開始以来最も高いレベルで推移しています。母体からの移行抗体だけでは感染防御は不十分なため、6ヶ月未満の乳児も感染・発症します。日本では2歳までにほぼ100%が初感染をうけると考えられます。

麻しんやムンプスとは異なり、一度感染しただけでは感染防御免疫が不十分で何度も発症しますが、通常再感染のたびに症状は軽くなっていきます。

診断

ウイルス分離、ウイルス抗原の検出、ウイルスRNAの検出、血清抗体価の上昇等の検査結果からRSウイルス感染症の病因診断がなされます。

イムノクロマト法を用いた簡便な迅速診断キット検査が実用化され、日本では2003年から3歳未満の入院患者に限定して保険適用となり、その後適用範囲が拡大され、2011年10月から外来診療における一歳未満児及びパリビズマブ(Palivizumab)(下記参照)製剤の適用患者も対象となりました。保険適用の拡大により、早期診断および流行状況のより正確な把握が可能になると考えられます。

感染経路と発症予防

RSウイルス感染症は、感染者の気道分泌物への接触あるいは咳で生じた飛沫を介して感染します。接触感染の予防には手洗いが、飛沫感染予防にはマスクの着用が有効です。

2002年に日本においても、RSウイルス粒子表面のエンベロープにあるFタンパク質を特異的に認識するモノクローナル抗体製剤パリビズマブが承認されました。

ワクチン開発の努力は長く続けられていますが、実用化には至っていません。しかし、臨床試験まで開発が進んでいる候補は複数あり、WHOは近い将来のワクチン導入を視野に世界的な発生動向調査を開始しています。感染防御免疫の誘導が単純ではなく、ある種の感染防御反応は、かえって再感染を重症化させるため、発症機序のさらなる解明が必要です。

RSウイルスはエンベロープをもち環境中では不安定で、石けん、消毒用アルコール、次亜塩素酸ナトリウムを含む塩素系消毒薬などに触れると容易に感染力を失います。

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